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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9248号 判決

第一相互銀行

事実

原告は請求の原因として、被告株式会社第一相互銀行は訴外佐藤に対する強制執行として債務名義に基く昭和三〇年一一月二四日右佐藤方において本件各動産につき差押をなしたが本件物件は右佐藤の所有物ではなく原告の所有に属するものである。すなわち、右各物件は債権者芹沢半多債務者松本吉松間の有体動産競売事件において外十数点の物件と共に右佐藤方で競売に付され、昭和二七年一二月一三日訴外白沢仲吾がこれを競落し、次いで同月二十九日原告においてこれを右訴外人から買い受けてその所有権を取得すると共に、更にこれを前記佐藤に対し賃料一カ月千円賃貸期間三年と定めて賃貸していたものである。従つて被告銀行の訴外佐藤に対する強制執行のため、原告において差押を受ける理由はないから、右強制執行は許されないものであると述べた。

被告株式会社第一相互銀行は答弁として、被告が訴外佐藤に対する強制執行として原告主張の動産を差し押えたことは認めるが、原告がその主張の日訴外白沢仲吾から本件物件を買い受け取得し、且つこれらを訴外佐藤に賃貸中であるとの事実は否認すると述べた。

理由

被告株式会社第一相互銀行が債務名義に基き訴外佐藤に対する強制執行として本件物件に対して差押をなしたことは当事者間に争がなく、右各物件が債権者芹沢半多債務者松本吉松間の有体動産競売事件において外十数点の物件と共に訴外佐藤方において競売に付され昭和二七年一二月一三日訴外白沢仲吾がこれを競落したことは証拠によつて認められる。而して甲第二号証の売渡証書によれば、原告が白沢仲吾から本件物件外十数点を代金六万円で買い受けた旨の記載があり、又甲第三号証の賃貸借契約書によれば、原告が昭和二七年一二月二九日右各物件を訴外佐藤に対し賃料一カ月千円、賃貸期間三年と定めて賃貸した旨の記載があるが、他方他の証拠を綜合すると次の事実が認められる。すなわち、原告と訴外佐藤の娘友好とは昭和三十年一月結婚した間柄であること、又原告は柔道教師である右佐藤と師弟の関係にもあつたこと、左様な関係から原告は昭和二七年一二月中右友好から父の佐藤実留がその使用中の家財道具につき前託競売を受けて困つていることを聞知し、金六万円を右友好を通じ右佐藤に一時融通交付したところ、佐藤において前記競落物件買戻の手続一切をなしたものであること、その後佐藤は原告に対して毎月千円宛を支払つて来たが、昭和二十八年頃からはこれを支払わず又原告においてもこれを請求せずに今日に至つていること、前記六万円については佐藤は金ができたら返済するといつているがまだ返済もしていないし、原告もその返還を求めたことはなく又今後も返還を求める意思を持つていないこと、前記賃貸借契約書については佐藤の方で持参して来たので原告は先方の気のすむようにと思いこれに捺印したに過ぎないものであること、原告が前記競売事件の競落人から買い受けたと称する各物件については原告はこれを点検照合したこともなくその種別も詳細には知つていないこと、又本件物件については今のところこれを引き取る意思もないこと、本件の強制執行に際しては佐藤方では何ら異議を述べたことのないこと、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、原告は佐藤親娘の窮状を救うため同人らに六万円を貸与若しくは贈与したに過ぎず、佐藤実留はその厚意に謝意を表明する意味において競落物件の買主を原告名義として売渡証書を作成させ、更に右物件を佐藤が原告から賃借した形式をとつて賃貸借契約書を作成したものであり、原告においても佐藤の気のすむようにと思いこれに捺印したに止まり、前記物件の買受取得、賃貸の意思がなかつたものであると認めるのが相当である。

してみると、本件物件が原告の所有であることを前提とする原告の本訴請求はこの点において失当であるとしてこれを棄却した。

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